残業代に関する契約の効力はどうなるか

労働基準法には、残業代に関する規定がいくつもあり、使用者はその規定にならって就業規則を取り決めているのが一般的です。もっとも、残業代に関して就業規則とは異なる取り決めが、個別に使用者と労働者の間でされることがあります。このような残業代に関する個別の契約の効力はどうなるのでしょうか。

以下においては、労働条件の内容について概要を説明した上で、残業代に関する契約の効力について、説明します。なお、労働基準法は「労基法」と略記します。

労働条件の内容等

労働条件の定め

賃金や労働時間など、働く上での様々な待遇のことを労働条件といいます。労働者が働くのも、使用者が労働者に賃金を支払うのも、両者の合意に基づくものです。この合意を労働契約といいます。原則的に、両者の契約(つまり合意)は、労働とこれに対する賃金支払が前提となっていれば、その内容は自由に定めることができます(契約自由の原則)。

しかし、使用者と労働者では立場が違い、労働者を雇っている会社の方が、労働者に比べ強い力を持っていることが殆どです。そこで、労働者を保護し、使用者の言いなりに契約されないように、労基法等の強行法規が設けられています。

このような労働者保護の趣旨から、労基法に違反する契約は無効になり、その無効となった部分は労基法の定めが適用されます(労基法13条)。労働条件は、法の範囲内であれば、契約自由の原則により、使用者と個々の労働者の合意によって定まるともいえそうですが、使用者はすべての労働者に画一的に一定のルールを適用する必要があります。このルールをまとめて記載したものが、就業規則です。

就業規則は、常時10人以上の労働者を雇用している事業場では作成しなければなりません(労基法89条)。作成時や変更時には、いわゆる過半数組合又は過半数代表者の意見を聴くこととなっているものの(労基法90条1項)、作成する(その内容を決定する)のは使用者です。就業規則には、賃金や労働時間など、重要な労働条件はもちろん、当該事業場の労働者全員に適用されるルールが記載されています。就業規則は、個々の労働者がその内容を把握していなかったとしても、周知されていて、合理的な内容である限り労働条件となるため(労働契約法7条、変更については同法9条・10条)、多くの場合、この就業規則が実質的に労働条件を決定することになります。

当然、就業規則が強行法規に違反するものであってはなりませんし、その内容が労働条件となるには合理的でなければなりません。

また、労働者と使用者が交渉し、就業規則で定める基準と異なる条件で合意した場合、就業規則で定める労働条件より労働者にとって有利なものであれば、法的には有効です。

一方、就業規則より労働者に不利な合意は無効となりますので(労働契約法12条)、就業規則は当該事業場の最低基準ということになります。

また、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対する賃金、労働時間その他の労働条件(始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定、計算及び支払の方法等)について書面による明示と交付が義務付けられています(労基法15条1項、労基法施行規則5条)。

労働時間等に関する労基法の定め

労基法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています(法定労働時間。労基法32条)。また、休日は原則として、毎週少なくとも1回与えることとされています(法定休日。労基法35条)。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や法定休日に労働させる場合には、労基法36条に基づく労使協定(36協定)の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。

また、36協定を締結し所轄労働基準監督署へ届出を行ったとしても、法律上、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間であり、さらに、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度とされています。

そして、特別条項の有無にかかわらず、1年を通じて常に、時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。使用者は、36協定を締結するだけでは、個々の労働者に時間外労働や休日労働を義務付けることはできません。使用者は、36協定に加えて、労働協約や就業規則、あるいは個別の労働契約等において、「業務上の必要のあるときは36協定の範囲内で時間外労働や休日労働を命令できる」ということを明らかにしておくことが必要です。

使用者が、労働者を①法定労働時間を超えて働かせたとき(時間外労働)、②法定休日に働かせたとき(休日労働)、③午後10時から午前5時までの深夜に働かせたとき(深夜労働)には、政令で定める割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条1項・4項)。時間外労働と深夜労働の割増率は2割5分以上、休日労働の割増率は3割5分以上となっています。

なお、残業とは、一般的に、労働契約上の所定労働時間を超える時間を指し(所定労働時間を超えて法定労働時間を超えない範囲の労働時間を「法内残業」、法定労働時間を超える労働時間を「法外残業」といいます)、時間外労働とは、労基法で定めた法定労働時間を超える時間のことをいいます。なお、法内残業であっても、労働契約や就業規則等で割増率が定められている場合には、これに従うことになります。

残業代に関する契約内容の効力

上記のような労働条件の内容等を前提に、残業代に関する契約内容の効力について、説明します。

法内残業の場合

法定労働時間を超えない範囲の残業代について、これを支払わないとする契約の効力はどうなるのでしょう。

行政通達では、「(所定労働時間が7時間で、8時間まで労働させた場合に関し)法定労働時間内にある限り所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。

但し、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合にはその別に定められた賃金額で差し支えない」としています(昭和23年11月4日基発第1592号)。そうすると、法内残業については、「別段の定めがなければ通常の労働時間の賃金」「労働協約、就業規則等に定めがあればその賃金額」によることになります。

しかし、この行政通達も、1時間あたりの賃金にしたがって算定された賃金の支払義務があるとは述べていませんし、労基法にもこの点についての定めはありません。

つまり、労使間の合意で「残業代を支払わない」とする契約も、有効ということになります。

時間外労働(法外残業)の場合

法定労働時間を超える労働に対しては、割増率を乗じた残業代を支払わなければならないと労基法に定められています。

残業代を支払わないとする契約は、強行法規である労基法に違反しますので、無効となります。

割増賃金の場合

労使間で、「割増賃金を支払わない」、あるいは「割増賃金の割増率を労基法37条に定める率よりも引き下げる」とすることは、労基法に違反しますから、その内容の契約は無効となります。

まとめ

残業代に関しては、法内残業の場合は、就業規則等によって支払の有無が決まりますが、時間外労働(法外残業)及び割増賃金の場合は、労働者に不利な契約内容は無効となり、法の定めに従った支払が義務付けられます。

残業代に関する契約に疑問をお持ちの方は、是非当事務所にご相談ください。

回収できなければ弁護士費用はいただきません。まずはお気軽にご相談ください。※残業代の請求権には2〜3年の時効があります。お早めにお問い合わせください。※交通費などの実費のみ請求する場合がございます。

0120-792-547
24時間受付。相談予約フォームはこちら