固定残業代とはどのようなものなのか

残業代は権利として請求することができるはずです。

しかし、「固定残業代」と称して、残業時間数や手当の額などが明確になっていない場合も少なくありません。

では、固定残業代とはどのようなものなのでしょうか。

以下では、固定残業代の導入、固定残業代請求の可否などを概観しながら、固定残業代とはどのようなものなのかについて、説明することとします。なお、労働基準法は「労基法」と略記します。

固定残業代の導入

固定残業代制とは、法定時間外労働等に対する割増賃金を、あらかじめ定額の手当等の名目で支給(手当型。例えば、「時間外手当は30時間分5万円とする」)、あるいは基本給の一部として支給(組込型。例えば、「基本給に30時間分の残業代5万円を含む」)する制度のことをいいます。

このような固定残業代も、行政解釈(昭和24.1.28基収3947号)によれば、実際の支払額が労基法所定の割増賃金額を下回らないのであれば、法令に違反しないと考えられています。労使が合意していて、しかも労基法が定める割増賃金よりも固定残業代の金額の方が大きいならば、労働者に有利になるわけですから、当然ですね。

他方、固定残業代の額が、法定の計算方法による割増賃金の額を下回る場合には、使用者は、この下回る部分の割増賃金を支払う法的義務があります。

この固定残業代制の有効性、言い換えるならば、「固定残業代を払っているから、それ以上の残業代の支払いは必要ない」という使用者側の主張の有効性をめぐっては、従来、裁判でも、いろいろなケースについて争われてきました(例えば、高知県観光事件・最判平6.6.13労判653・12、テックジャパン事件・最判平24.3.8労判1060・5、国際自動車事件・最判平29.2.28労判1152・5、医療法人康心事件・最判平29.7.7労判1168・49、日本ケミカル事件・最判平30.7.19労判1186・5参照)。

中でも、残業代相当額を基本給の中に含めて支払うという考え方が可能かどうかが争われた事案として最高裁平成29年7月7日判決(医療法人康人事件)と、これを受けた厚生労働省の平成29年7月31日付通達(基監発0731第1号)には注目が必要です。医療法人康人事件とはどのような事件で、最高裁はどのような判断を示したのでしょうか。

医療法人康人事件・判決の要旨

事案

勤務医であるXが使用者である医療法人Yに対して、時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金等の未払分の支払を求めた事案。

使用者側の主張

Yは、XとYの間には、時間労働等に対する割増賃金を年俸の中に含める旨の合意(本件合意)があったことから、Xが未払を主張する労働等の割増賃金は全て支払済みである旨主張。

ただ、この合意では、Xに対して支払われる年俸(賃金)のうち、時間外労働等の割増賃金に当たる部分が幾らであるか、明らかにされていませんでした。

最高裁の判断

このような事案で、最高裁は、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払うことについて、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であるとした過去の判例(前掲の各最高裁判例)を引用した上で、「割増賃金に当たる部分の金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである」としました。

そして、本件については、Xに支払われた年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないことから、YのXに対する年俸の支払により、Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない旨判示しました。

厚生労働省平成29年7月31日付通達

厚生労働省より、時間外労働等に対する割増賃金に関し、2つの通達(基監発0731第1号、基発0731第27号)が全国の労働基準監督署に発出されました。

これは、時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払う場合には、①基本賃金等の金額が労働者に明示されていることを前提に、例えば、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金に当たる部分について、相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示するなどして、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であることから、明確に区別できるようにしているか確認すること。

②割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働等の時間に応じ労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回る場合には、その差額を追加して所定の賃金支払日に支払わなければならない。そのため、使用者がガイドライン(平成29年1月20日基発0120第3号)を遵守し、労働時間を適正に把握しているか確認すること。というものです。

最近の動き

直近の前掲最判平30.7.19(日本ケミカル事件)は、「固定残業代」というネーミングではなくとも、雇用契約上時間外労働に対する対価として支払われることになっている手当であり、諸事情に照らした実態からも固定残業代であると言える場合、こうした手当を実質的に固定残業代として扱うことを認める趣旨の判断をしています。

このような流れの中、さらに、厚生労働省は、固定残業代制を採用する場合に募集要項や求人票などに明示すべきとするリーフレットを新たに公表しました。

固定残業代請求の可否

以上のような最高裁判例や厚生労働省の通達の考え方によれば、固定残業代が基本給とは別に支給され、それが実質的にも固定残業代であると評価できる場合には、所定の時間内の残業であれば、固定残業代以上の賃金を請求することはできません。

しかし、使用者がいうところの「固定残業代」が、時間外労働に対する手当であることが明確でなかったり、基本給と区別できないようであれば、別途時間外労働に対する割増賃金の請求が認められる可能性もあります。

また、実際の残業時間にかかわらず、「固定残業代」と称して割増賃金を一定額しか支払わないという取扱いは違法であり、労基法37条等に従って算定した残業代との差額を請求することができます。

他方、使用者が「残業代も考慮した基本給にしている」と主張する場合、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないような給与体系であれば、使用者のそのような主張は認められず、時間外労働に対しては別途割増賃金を請求できる可能性が高まります。

まとめ

固定残業代に関しては、裁判で争われるケースも多く、また、厚生労働省から指針が示されています。

固定残業代の内容が妥当か、割増賃金を別途請求できるか、請求できないのかは、個別の事案によって判断が異なりますので、残業代請求の経験がある弁護士に相談するのが一番です。会社等の固定残業代制度に疑問をお持ちの方は、是非当事務所にご相談ください。

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