年俸制の労働者は残業代を請求できる?職種や法律上の問題点を紹介

年俸制で働く労働者は、毎月決まった金額の賃金しか支払われず、残業代が未払いとなっているケースがしばしば見られます。
もし適切な残業代の支払いが行われていない場合には、弁護士に相談して正確な残業代を計算したうえで、会社に対する正当な請求を行いましょう。
この記事では、年俸制の労働者の残業代請求について、年俸制が採用されている職種の例や、年俸制の残業代に関するよくある法律上の疑問と併せて解説します。
年俸制とは?
年俸制とは、労働者に対して支払われる賃金が、年単位で決定される賃金形態をいいます。年俸制で働く労働者に対する賃金の支払いは、年1回だけ行われるわけではなく、月に1回以上支払われるように分割して行われます(労基法24条2項)。
たとえば年俸が600万円の労働者に対して、毎月50万円を12か月に分けて支給するという具合です。
年俸制は、あくまでも基本となる賃金額を決定する考え方に過ぎないので、残業に関する労基法上のルールは、通常どおり適用されます。
年俸制が採用されている職種の例
年俸制が採用されている職種では、1年ごとに労働者の能力や成績の評価を行い、その結果に応じて翌年の年俸を決定する「成果主義」が採用されている傾向にあります。
年俸制が採用されていることが多い職種の具体例は、以下のとおりです。
- 医師、看護師
- エンジニアなど(IT業界、WEB業界)
- 外資系企業(投資銀行、コンサル会社など)
- 大手事務所勤務の士業(弁護士、会計士など)
なお、「年俸」というとスポーツ選手がクローズアップされがちですが、スポーツ選手はあくまでも個人事業主としてチームと契約しているため、労働者の「年俸制」とは法律上の位置づけが異なります。
年俸制の残業代に関するよくある誤解
年俸制で働く労働者の中には、「年俸制だから残業代をもらえなくても当然、仕方ない」と考えてしまう方も多いようです。
しかし年俸制の労働者についても、未払い残業代が発生しているケースはよくあるので、少しでも疑問を持ったら弁護士に相談することをお勧めいたします。
以下では、年俸制と残業代の関係に関して、よくある法律上の誤解について解説します。
年俸制の労働者には残業代を全く払わなくてよい?
年俸制の労働者は、「1年間でもらえる賃金の金額が決まっている」と考えてしまいがちです。
しかし、この考え方は厳密には誤りで、正確には、「1年間の基本給の金額が決まっている」ということに過ぎません。
労基法32条1項・2項では、労働時間の上限が原則として「1日8時間・1週間40時間」と定められています(法定労働時間)。そして法定労働時間を超える労働が発生する場合には、「36協定」に基づき、使用者は労働者に対して、時間外労働に対する割増賃金を支払わなければなりません(同法36条1項、37条1項)。
年俸制の労働者に対しても、上記の残業代・時間外労働に関するルールは適用されます。
つまり、年俸制で働く労働者であっても、労働時間を1日単位・1週間単位に細分化して分析すれば、未払い残業代が発生している可能性が高いのです。
年俸の中に残業代をあらかじめ含めることができる?
会社によっては、「年俸の中に残業代が一部含まれているのだから、追加で残業代を支払う必要はない」という説明をしているケースがあります。この考え方は「固定残業代制」と呼ばれるものです。
しかし固定残業代制を適法に導入するためには、労働者に対して、以下の内容すべてが明示されるなどして、基本給の部分と割増賃金部分とが判別できるように明確に区分されている必要があります。
- ①固定残業代を除いた基本給の額
- ②固定残業代に対応する労働時間数(固定残業時間)と、固定残業代の金額などの計算方法
- ③固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・および深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨
上記をかみ砕くと、まず使用者は労働者に対して、
- 年俸のうちいくらが固定残業代なのか
- 固定残業代に対応する残業時間は何時間なのか
- なぜ固定残業代がその金額なのか(どのように計算したのか)
といった内容を示して、固定残業代制を採用していることを説明する必要があります。
そのうえで、固定残業時間を超える時間外労働が発生した場合には、使用者は労働者に対して、割増賃金を追加で支払わなければならないのです。
つまり、年俸が残業代を含んでいるという説明を受けた労働者は、
- そもそも固定残業代制が適法に導入されているか
- 労働時間を1日単位・1週間単位で分析した場合に、固定残業時間を超える時間外労働が発生していないか
という2つの観点から、未払い残業代の有無を慎重に検討する必要があります。
年俸制の管理職には残業代を支払わなくてよい?
管理職のみについて年俸制を採用しているという企業では、労基法上の「管理監督者」(同法41条2号)に当たるという理由から、年俸制の管理職に残業代を支給していないケースがあります。
しかし、管理監督者に該当するかどうかは、役職名等にとらわれず、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場とあるかどうかにより判断され、具体的には、①職務内容・責任と権限、②勤務態様、③賃金等の待遇等を踏まえて実体に即して判断される必要があります。
管理職の中には、現場の総括を担当する程度の権限しか与えられておらず、待遇も一般の労働者とあまり変わらないという人も多く見られます。こうした人々は「名ばかり管理職」と呼ばれており、本来は残業代を受け取る権利があるにもかかわらず、残業代が違法に支払われないことが問題になっています。
「管理職だから」という理由で残業代が支払われていない方は、ご自身が「名ばかり管理職」ではないかという観点から、弁護士とともに法的な検討を行うことをお勧めいたします。
残業代請求は当事務所にお任せください
年俸制の労働者についても、月給制・日給制などの労働者と同様に、時間外労働に対する残業代を受け取る権利があります。もし未払い残業代が発生しているのではないかと疑問を持った場合には、弁護士に相談して法的な検討に着手しましょう。
当事務所は、初回ご相談30分無料、かつ着手金0円の完全成功報酬制を採用しております。残業代の未払いでお悩みの年俸制労働者の方は、お気軽に当事務所までご相談ください。