残業代請求を裏付ける証拠を保全するにはどうしたらよいのか

小山 雄輝
弁護士 小山 雄輝 (こやま ゆうき)

残業代を会社に請求したいのに手元に残業時間を証明する資料がない。会社にはあるはずだけど、残業代も払わない経営者ですから資料を廃棄したり、書き換えたりする可能性もある。それでも、残業をした事実やその時間は最終的には労働者が証明しなければなりません。会社に資料を廃棄されたり、書き換えられたりする前に労働者側が確保するにはどうすればよいでしょうか。

例えば労働者自らが残業代請求に備え、あらかじめ証拠の撮影をしておくことや写しをとっておくなどして証拠を確保することが考えられます。

しかし、全ての証拠を撮影しておくことには限界がありますし、これらの証拠は使用者の手中にあることが殆どです。使用者が任意に証拠の提出に応じてくれる場合もありますが、全ての使用者がその証拠の提出に応じてくれるとは限りません。

使用者によっては、これらの証拠の提出を拒むだけでなく、証拠の廃棄・改ざん等のおそれが出てくることもあります。そのような場合には、これらの証拠の廃棄・改ざん等を防ぐ必要性は高くなります。

このように、法的請求をするにあたって重要となる証拠を、廃棄・改ざん等されないよう当時あるいは現在の状態で保持・保存することを、特に法律的に「証拠を保全する」と言います。

では、残業代請求を裏付ける証拠を保全するにはどうしたらよいのでしょうか。

以下においては、証拠保全の意味、証拠保全の手続の流れを見ながら、残業代請求を裏付ける証拠を保全するにはどうしたらよいのかについて、説明します。

証拠保全の意味

証拠保全とは、訴訟における本来の証拠調べの時期まで待っていたのではその証拠を使用することが困難となる場合に、あらかじめ証拠調べをして、その結果を保全しておくための手続をいいます。証拠保全の手続については、民訴法234条以下に定められています。

証拠保全の手続の流れ

証拠保全の申立書の作成

証拠保全の申立書の記載事項

証拠保全の申立ては、書面でしなければなりません(民訴規則153条1項)。申立書には、表題、申立てをする裁判所、年月日、申立人又は代理人の記名・押印、申立人、代理人及び相手方の住所・氏名、送達場所、申立人又は代理人の電話番号・FAX番号のほか、申立ての趣旨、申立ての理由として証明すべき事実、保全の対象とする証拠及び証拠保全の事由を記載します(民訴規則153条2項参照)。

また、証拠保全の事由は疎明しなければならないとされています(民訴規則153条3項)。この疎明というのは、「証明」より一段階緩いもので、証明が確信を必要とするのに対し、疎明は「一応確からしい」という程度で確認できれば良いとものとされています。

したがって、残業代の請求のような場合には、申立人である労働者に未払いの残業代があることが一応あるのだろうとわかるように、資料を以て説明する必要があります。

また、申立書には疎明資料を添付するほか、代理人申立ての場合には訴訟委任状、相手方が法人の場合には資格証明書の添付を要します。

さて、以下では申立書の記載事項のうち、「証明すべき事実」及び「保全の対象とする証拠及び証拠保全の事由」について更に説明を加えていきます。

証明すべき事実

証明すべき事実とは、証拠保全により保全する証拠によって証明しようとする事実です。証明すべき事実は具体的に記載しなければなりませんが、訴え提起前の証拠保全は、本案訴訟前に緊急を要する段階で行うものですから、ある程度概括的な記載をすることも許されています。

残業代請求のような事案であれば、多くの場合、時間外の労働時間や割増賃金の金額といった事実が証明すべき事実になると思われます。

保全の対象とする証拠

残業代請求において保全すべき証拠としては、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録、入退場の記録、出勤簿、賃金台帳(労基法108条及び同法施行規則54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないとされています)、業務日報、メールのデータ、シフト表等、労働時間を算定するために有用となる様々な資料が考えられます。

なお、使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、同法109条・143条1項に基づき、5年間(当分の間3年間)の保存義務があります。

また、賃金台帳に上記の事項を記入していない場合、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合や上記の保存義務に違反した場合は、同法120条に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。

証拠保全の事由

「証拠保全の事由」とは、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」をいいます(民訴法234条)。

証拠保全の事由としては、滅失、散逸、廃棄、隠匿、改ざん等が挙げられますが、これらの事由は一般的・抽象的な「改ざんのおそれ」等だけでは足りず、これらを基礎付ける事実を具体的に記載し、具体的な「改ざんのおそれ」等を疎明しなければならないとされています。

例えば実際に使用者が、タイムカードを意図的に破棄したり、内容を修正したといった事実が過去にあれば、それは典型的な「改ざんのおそれ」があるという根拠といえます。

なお、訴え提起前の証拠保全の場合、証拠を保全した後に本案訴訟を提起する予定でなければ、証拠保全の事由があるとはいいがたいので、申立書には本案訴訟提起の予定を記載し、その疎明をすることが必要であるとされています。

証拠保全申立て後の手続

裁判官面接

証拠保全の申立て後、一般的には、まず、裁判官と申立人との間で面接が行われます。裁判官面接では、不足していると思われる点や疑問点などの説明が求められ、申立書に不備や補充を要することがあれば、不備の補正や資料等の追完が求められます。

その後、裁判官が証拠保全をする必要があるか否かを判断するという流れになります。

証拠保全の要件

証拠保全は、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」がある場合に行うことができます。

例えば、訴訟の段階まで待っていたのでは、問題となる書類がなくなったり、書き替えられたりして、証拠として使えなくなってしまうおそれがある場合に証拠保全の手続ができるということになります。

裁判官は、証拠保全の要件があるかどうかについては、申立人の言い分と申立人が提出した資料のみで判断することになります。

証拠調べ

裁判官は、検討の結果、証拠保全をする必要があるとの判断に至った場合には、実際に証拠があるとされる現場に赴き、対象となる証拠を調べることになります。

証拠保全の手続は、その性質上、迅速性と密行性が要求されるため、証拠調べの前に余裕をもって相手方に連絡しておくということができません。そのような運用をとってしまえば、まさに相手方による証拠の隠匿、改ざんの機会を与えてしまうことになってしまいます。

したがって、相手方への呼出状や申立書副本を送るのは実際に証拠調べをする直前というのが実務の取扱いであり、そのことによって、証拠資料の改ざん等のおそれが回避されています。

証拠調べは、保全の対象となる証拠(主に書類やパソコン上の記録が多いようです)の有無や数を確認した上で、コピー機やデジタルカメラ等を利用して、その内容を書面化できるように保存するという形で行われます。

証拠調べ終了後、追って、裁判所書記官が証拠調べの結果を書面にしてまとめ、証拠保全の手続は終了となります。

まとめ

労働者が残業代を請求するにあたっては、その根拠となる証拠を準備しておくことが望ましいです。全ての使用者がその証拠の提出に応じてくれるとは限りませんが、その証拠がなければ、残業代請求の根拠となる実労働時間を立証することが難しくなります。そこで、あらかじめ証拠を収集する手段の1つとして証拠保全を利用することが考えられます。

しかし、証拠保全の手続は迅速性と密行性が求められるため、手続を熟知した上での正確性が求められます。

したがって、専門家である弁護士に依頼するのが望ましいといえます。残業代請求を裏付ける証拠を保全したいとお考えの方は、是非当事務所にご相談ください。

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