労働者が残業代を請求する場合、労働者はどのような証拠を集めなければならないのか

小山 雄輝
弁護士 小山 雄輝 (こやま ゆうき)

労働者が残業し、その分の賃金が支払われていない場合、労働者は使用者に残業代を請求することができます。使用者が請求通り支払ってくれれば良いのですが、実際は残業時間や金額について争いが生じることが多いのが現状です。その場合、労働者の残業を裏付ける証拠によって立証する必要が生じます。

では、労働者が残業代を請求する場合、労働者はどのような証拠を集めなければならないのでしょうか。

以下においては、残業した時間、労働時間を立証する証拠を概観しながら、労働者が残業代を請求する場合、労働者はどのような証拠を集めなければならないのかについて、説明することとします。なお、労働基準法は「労基法」と略記します。

残業した時間

そもそも、「労働時間」とはどのような時間のことをいうのでしょうか。「労働時間」とは、実質的に使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、労働時間として使用者から指定されていた時間ではなくとも、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。

なお、「労働時間」には、「所定労働時間(」労基法施行規則19条1項)という概念がありますが、これは、労働契約上の始業時から終業時までの時間から、労働契約上の休憩時間を差し引いた時間のことです。

残業時間は、「労働時間」から所定労働時間を差し引くことで求められますので、残業時間を算出するためには、まずは自身の労働時間を確定させることから始める必要があります。

労働時間を立証する証拠

では、具体的に残業代を請求するにあたって、有用な証拠がどういったものかをみてみましょう。

労働契約書、雇用契約書、雇用通知書

これらの書類には、会社が指定する所定の就業時間が記載されています。

また、残業の支払に関する取決めなど、雇用契約の具体的内容が記載されています。そのため、これらの書類は、残業代を計算する上で基本となる証拠です。

就業規則、賃金規程等

これらは、始業・終業時刻、時間外労働、給与の金額についての社内規定を示す資料です。個別の契約内容については労働契約書に記載されていますが、会社として終業時間をどのように設定しているのか、残業代の割増率をどう定めているのかといった会社の基本的な取り決めを記載しているのが就業規則や賃金規定であり、これもやはり基本となる証拠です。

給与明細、源泉徴収票等

これらは、支給された給与の金額・内訳が分かる資料です。

残業代を請求するには、残業した時間に、自身の1時間あたりの賃金額を乗じる計算方法がとられます。給与明細には賃金額を計算するにあたって必要な情報が記載されているほか、出勤日数や、残業時間等が記載されていることも多く、労働時間を把握するための有用な証拠となります。

労働時間を示す証拠

労働時間を明らかにするための証拠としては、以下のようなものが考えられます。

タイムカード、社員IDカードによる入退場の記録、パソコンの使用時間の記録、賃金台帳

タイムカードは、労働時間を示す典型的な資料です。通常は、労働者が出勤した時間と退勤した時間のほか、休憩時間も記載されていることが多いため、タイムカードは、労働時間を把握するための価値が高い証拠とされています。

このほか、賃金台帳についても、労働時間を把握するための典型的な証拠です。使用者は、労基法108条及び労基法施行規則54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないとされています。

なお、使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労基法109条・143条1項に基づき、5年間(当分の間3年間)の保存義務があります。このため、これらの書類は、使用者に開示を求める方法によって準備することが通例です(賃金台帳に上記の事項を記入していない場合、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合や上記の保存義務に違反した場合は、労基法120条に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。)。

これらの資料以外には、パソコンの使用時間の記録から労働時間を認定した下級審の裁判例があります。

例えば、東京地裁平成18年11月10日判決は、「デスクワークをする人間が、通常、パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを経験的に推認できる」として、労働時間を算定するにあたって、パソコンの使用記録を参考にすることを認めました。

また、東京地裁令和元年6月28日判決(大作商事事件)でもパソコンの使用履歴が労働時間の認定根拠とされています。このように、タイムカードや賃金台帳といった、労働時間を管理することを目的とした資料以外にも、労働者の労働の実態に応じて、労働時間を算定するための資料は多種多様です。

コンピュータ上の出退勤管理システム

近年、サービス業で多数の店舗を運営する企業などでは、労働者の出退勤管理をコンピュータ上で行っている場合が増えてきました。

例えば、カラオケ店の店長についてPOSシステムに入力された出退勤時刻により労働時間を認定した下級審の裁判例がありますが、コンピューター上の出退勤管理ツールについても、労働時間を把握するための有力な資料になりえます。

業務日報

会社によって違いはあるものの、業務日報に労働者が時間を記載して報告している例も多くあります(特に、会社外の仕事が多く労働時間を算定しがたい営業職や、配送業といった職種には多く見られます)。

業務日報は単に時間が記載してあるだけでなく、業務内容が記載されている場合もありますから、労働時間の立証のための重要な証拠になり得ます。

旅行添乗員の業務状況を記載した添乗日報等で労働時間を認定した裁判例があります(阪急トラベルサポート(第2)事件・最判平26.1.24労判1088・5)。

入退館記録

職場が入居しているビルの警備記録に労働者の入退館の時刻が記載されている場合があります。

この場合、残業代を請求する労働者個人の入退館時刻が明らかになる記録が残っていれば、労働時間を立証する上で客観性の高い資料となり得ます。

職場から送信したメール等

残業時間中に、職場のメールアドレスから送信した業務に関するメールや、携帯電話から送信した業務に関するメールは、その時間に業務をしていたことを推認できるので、労働時間を立証するための証拠として有用です。

ただし、職場外からでも送信できる場合は、既に退勤して業務から解放されていたものの、一時的に業務をしたという可能性を否定できません。

したがって、メールを送った前後の時間を労働時間として裁判所に認定してもらうためには、当該メールの送信に至るまで就労していたことやその時間を立証する必要があります。

出退勤時間を記載した日記、カレンダー、手帳

これらは、労働者自身が作成したものですから、労働者が記載を変更したり、後から書き加えることもできるという点で客観的に乏しく、証拠価値はそれほど高いとはいえません。

しかしながら、特に会社と争いになる前から、その都度日記を記載していたことも立証できる場合や、日記の記載と整合する客観的な別の証拠がある場合などは、一定程度信用性が認められるとして労働時間の立証に役立つことがあります。

信用性が認められるか否かは、これらの記載と合致する他の客観的資料の内容や、記載時期、記載するに至った事情、動機などから、総合的に判断されます。

上司からの残業を指示する書類やメール

上司から残業の指示があった場合、通常はその指示に従って労働者が残業すると考えられます。

したがって、その指示があったこと自体を裏付けるこれらの資料は、その時間残業したことを示す資料といえます。

タコグラフ、ドライブレコーダー

タコグラフ(運行記録計)とは、自動車のタコメーター(回転速度計)の状況を時系列的に記録する装置であり、24時間の中で、自動車がいつどのくらいの速度で走行していたかを確認することができるものです。アナログのもののほか、最近はデジタル化したものもあります。

バスと一定の地域のタクシー、一定の重量以上のトラックにはタコグラフの設置が義務付けられており、1年間の保管義務があります(トラックの場合は貨物自動車運送事業輸送安全規則9条、バス及びタクシーの場合は旅客自動車運送事業運輸規則26条)。

したがって、トラック、バス、タクシーなどの運転手については、タコグラフを使用して車両が運行していた時間、つまり運転手が運転業務に従事していた労働時間を立証することができます。

また、最近は、タクシーなどにドライブレコーダーを搭載している場合もあり、これも労働時間の立証に資する場合があります。

テレビ・Web会議ツール

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「Zoom」や「Google Meet」といったWeb会議ツールが使用されることが多くなりました、このツールを使用していた履歴が存在すれば、その時間に会議に参加して業務に従事していたことを示すものとして、労働時間の立証に役立ちます。

ロケーション履歴、ザンレコ

労働者が時間ごとにどこにいたかを把握できれば、その時間労働していたことを客観的に把握することができます。裁判例では、GPSの記録により長時間労働が認定されたものがあります(津地方裁判所平成29年1月30日判決)。

また、最近では、弁護士が開発したザンレコというアプリが使用されることもあります。ザンレコは、GPSを利用して自動で簡単に残業時間を証拠化できるスマホアプリです。ザンレコに基づいて労働者の労働時間を認定した下級審裁判例もみられます。

IC乗車券

最近は公共交通機関の乗車券がIC化され、乗降時刻、乗降車駅等の情報が蓄積される仕組みになっています。IC乗車券の利用履歴にあった職場最寄り駅への入場時刻を使用して労働時間を認定した下級審の裁判例があります。

シフト表

シフト制で労働者が勤務することは、店舗営業などではよくみられます。シフト制に基づいてシフト表が作成されていれば、基本的にはその時間通りに労働者が勤務をすることになります。

したがって、シフト表の記載は、労働時間を認定する証拠となり得ます。

メールやLINE

家族に「今から帰る」などと、メールやLINEで日常的に連絡していた場合、これらも終業を示す証拠となり得ます。

まとめ

労働者が残業代を請求するにあたっては、その根拠となる証拠を準備しておくことが欠かせません。

もっとも、準備すべき証拠は、業務の内容や働き方などによって多種多様ですから、労働者が具体的にどのような証拠を揃えなければならないのかについては、労働事件に精通している弁護士のアドバイスを得るのが望ましいといえます。

残業代請求にはどのような証拠が必要かお悩みの方は、是非当事務所にご相談ください。

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