残業代はどのタイミングで請求すべきなのか

小山 雄輝
弁護士 小山 雄輝 (こやま ゆうき)

会社を退職するつもりはないが、残業代がきちんと払われないことに不満がある。すでに会社を退職しているが、今さら未払いの残業代を請求できるのだろうか。

このようなことを思われている方も多いと思います。残業代の請求権には消滅時効があることから、いつ請求すればよいか悩ましい問題があります。では、残業代はどのタイミングで請求すべきなのでしょうか。

以下においては、残業代請求権の時効、残業代請求と遅延損害金の関係、在職中に残業代を請求する場合のポイント、退職後に残業代を請求する場合のポイント、残業代請求のタイミングによる違いなどを概観しながら、残業代はどのタイミングで請求すべきなのかについて、説明します。

なお、労働基準法は「労基法」、賃金の支払の確保等に関する法律は「賃確法」、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則は「賃確則」と略記します。

残業代請求権の時効

民法や労基法の改正に伴い、残業代請求権の時効が変更されています。2020年3月31日以前に支払期日が到来した残業代請求権の時効は2年ですが、同年4月1日以降に支払期日が到来する残業代請求権の時効は、当分の間、3年となっています(労基法115条・143条3項、労基法附則〔令和2・3・31労基法13〕2条2項)。

そして、時効の完成を猶予するためには、一般的に、内容証明郵便や配達証明付き郵便の方法により催告(民法150条)を行う必要があります。

しかし、時効の完成が猶予されるのは、催告から6か月間だけですので、催告後に再度、時効の完成を妨げる必要がある場合には、裁判上の請求等(民法147条1項各号)、強制執行等(民法148条1項各号)、若しくは仮差押え等(民法149条各号)による時効の完成猶予事由を行うこと、又は相手方による債務の承認(民法152条)により時効の更新をすることが必要になります。

残業代請求と遅延損害金の関係

遅延損害金は、2020年3月31日までは、使用者が会社又は商人の場合、商事法定利率の年6%が適用され(商法514条)、公益法人などの商人に該当しない使用者の場合、年5%が適用されていました(民法404条)。

しかし、民法改正に伴い、同年4月1日以降は、商事法定利率が廃止され、民法404条所定の遅延損害金は年3%(同条2項)、その後3年ごとの変動制(同条3項)が適用されます。なお、民法附則(平成29・6・2労基法44)17条3項によれば、2020年3月31日以前に発生した残業代の遅延損害金については、従前の利率によることになります。

労働者が退職した場合、退職後の賃金請求の遅延損害金については、退職日の翌日から支払済みまで年14.6%となります(賃確法6条1項、同法施行令1条)。

したがって、在職中の遅延損害金は、改正民法施行前の利率か又は年3%(その後3年ごとの変動制)ですので、訴訟では、支払日の翌日から退職日までは上記利率のいずれか、退職日の翌日から支払済みまでは年14.6%の遅延損害金を付すことを求めることになります。

例えば、ある年の3月末日に退職した労働者が、1月末日に支払われるはずだった賃金を請求する場合は、2月1日(支払日である1月末日の翌日)から3月末日までは、改正民法施行前の利率か又は3%の遅延損害金、そして3月末日から実際に支払われるまでについては、年14.6%の遅延損害金を請求することになります。

ただし、賃確則6条各号に定められている「やむを得ない事由」に該当する場合には、賃確法6条1項の規定の適用はありません(同条2項)。その場合には、遅延損害金として上記利率のいずれかを付すことになります。

在職中に残業代を請求する場合

残業代の請求権が時効により消滅するおそれがある場合には、在職中であっても、残業代を請求する必要性は高いことになります。

しかし、在職中に残業代を請求することで、仕事がやりづらくなるのではないか、会社に居づらくなるのではないか、所属する職場のチームワークを乱すことになるのではないか、組織に楯突く態度と受け取られ不当な扱いを受けるのではないか、転職に影響するのではないか、などと思いが巡らされ、このような心情的な理由から、残業代の請求自体を思いとどまる方も多いのではないかと思われます。また、会社から説得されて、残業代請求を断念する方がいるかも知れません。

一方で、会社が労働者の能力を評価し、今後も所属する職場で働いてほしいと願っている場合には、話合いによって円満に解決できる可能性もあります。好意的にとらえれば、残業代の請求を契機として、会社の労働条件が改善され、より働きやすい職場になることも考えられます。ただ、このような場合には、個々の労働者によって対応が異なってくる危険性もあり、場合によっては差別的な扱いを受けることが危惧されるのです。

このように、在職中の残業代請求はそれなりの覚悟が必要ですから、転職を考えている場合には、転職先を決めてからの請求が安全策といえましょう。

そして、在職中にあえて残業代請求をする場合には、その請求の前提となる残業時間を確定し、そのことを証明できる証拠を揃えるとともに、時効による消滅を避けるため、内容証明郵便や配達証明付き郵便の方法により催告した上、会社と話合いによって交渉し、示談交渉がまとまらない場合には、労働審判や訴訟(裁判)を検討することになります。

このように、在職中に残業代を請求する場合には、十分かつ漏れの無い準備とスケジューリングが必要ですから、専門家である弁護士に示談交渉などを依頼するのが望ましいといえます。

上記の証拠としては、「労働条件・給料」に関する資料(雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金台帳、給与明細など)のほか、タイムカード、管理ソフトの記録データ、業務日報、パソコンの使用時間の記録、業務メールの送信履歴、社員IDカードによる入退場記録、交通ICカードによる乗車時間の記録などが考えられます。

退職後に残業代を請求する場合

退職後に残業代を請求する際も、在職中の場合と基本的には同じになります。退職後に残業代請求をしようと考え、在職中の請求を思いとどまっていた場合には、在職中に、将来の残業代請求に必要な上記の証拠をできるだけ準備しておかなければなりません。在職中の方がこれらの証拠を集めやすいからです。

在職中に発生している残業代は、時間の経過とともに、時効により消滅していきますので、退職直後に、内容証明郵便や配達証明付き郵便の方法により催告しなければなりません。

そのためには、退職後の早い段階に、弁護士に依頼して、会社と交渉してもらうとともに、労働審判や訴訟(裁判)を準備してもらうことが望ましいです。

残業代請求のタイミングによる違い

残業代の時効は給与の支払期日から始まるため、より多く残業代を得るためには、在職中に請求すべきということになります。在職中の方が多くの証拠を集めることができますので、残業代請求をしやすいともいえます。また、労働基準監督署への申告も可能です。

もっとも、退職後は、労働審判や訴訟(裁判)を起こしやすいため、残業代と同額が課されるとされる付加金(労基法114条)や年14.6%の遅延損害金を交渉材料とすることが考えられます。在職中の残業代請求が難しかったという場合でも、退職後だからこそ利用できる有利な条件を利用し、よりよい解決を図っていくことが重要です。

まとめ

労働者は、在職中、退職後を問わず、いつでも残業代を請求できますが、時効という壁があります。在職中の方が会社の内部にいる分証拠は集めやすいといえますが、残業代を請求し、会社との対立関係が生じることで、在職中の精神的負担が大きくなることは無視できません。

一方で、退職後は、憂いなしに請求でき、付加金や年14.6%の遅延損害金を交渉材料にできるという利点があります。

いずれにせよ、請求時の環境下でより良い結果を導くためには、専門家である弁護士のサポートが欠かせません。残業代請求をどのタイミングですべきかとお悩みの方は、是非当事務所にご相談ください。

回収できなければ弁護士費用はいただきません。まずはお気軽にご相談ください。※残業代の請求権には2〜3年の時効があります。お早めにお問い合わせください。※交通費などの実費のみ請求する場合がございます。

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